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HON TO KASHIWA

「本」と「柏」に関する情報をご紹介。柏を本の街に!

♯本と柏

2021.05.07【Interview】

じっくりと時間をかけて本と出合う場所/

くまざわ書店

「本と柏」のコーナーでは、本と柏、柏と人をテーマにしたトピックを発信していきます。第1弾では、2017 年 5 月から柏高島屋ステーションモールの新館専門店 5 階に店舗を構える「くまざわ書店」を紹介します。

●「くまざわ書店」の歴史を簡単にご紹介

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「くまざわ書店」という店名は、創業者の「熊沢」の名前に由来する

「くまざわ書店」は 1890 年(明治 23)に創業した 130 年以上の歴史をもつ老舗書店。東京・八王子を発祥とする、八王子では知らない人はいない名物書店です。

 創業時は「くまざわ開聞堂(かいぶんどう)」という新聞のお店からスタートし、本の外商、教科書の専門販売を行う書店へ。のちに一般書も扱うようになり、1967 年(昭和 42)に駅前にビル1棟を構えて全国展開へと進んでいきました。現在は国内に 226 店舗を構える日本有数の大型書店となっています。

●モットーは“良い本を売る”

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「くまざわ書店」柏高島屋ステーションモール店の店長・荒巻さやかさん

柏高島屋ステーションモールには 2017 年にやってきた「くまざわ書店」。どんな特徴のある本屋さんなのか、店長を務める荒巻さやかさんに、昨今の書店事情なども含め、お店の魅力を伺ってみました。

――出版業界は長く不況と言われていますが、本の売れ行きというのは、かなり変化しているものなのでしょうか?また、「くまざわ書店」が本を売るためにとっている戦略などはありますか?

荒巻さん(以下、荒巻):そうですね。余暇時間に何をするかの選択肢が増えたことで本の売り上げが下がっていった印象があります。特にスマホの普及が大きいでしょうか。スマホで情報を検索したり、本を読んだり、勉強したり、ゲームをしたり、色々なことができる。以前と時間の使い方が変わってきていますよね。

「くまざわ書店」は“良い本を売る”ことを大事にし、その一環として書評コーナーを展開しています。新聞の書評で取り上げられるような価値のある本をお客様の目にとまりやすいようコーナー化して1冊でも多く売っていこう、仮に最初の入荷が少なくても、良い出版社、良い著者の本はきちんと前面に出そう、というのが会社の考えですね。
 時事の話題に関する本など、その時々にお客様が欲しくなりそうな本を店頭に出す。本部からそういった情報がきちんとくるようになっていて、それを元に売り場を作っています。店舗の方でもなるべく新聞やニュースを抑えるようにしていますね。

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今年の NHK 大河ドラマ「青天を衝け」のコーナーも関連本含め充実している

●柏高島屋ステーションモール店が演出する“本との出合い”

――柏高島屋ステーションモール店独自の売り場づくりみたいなものはあるんですか?

荒巻:基本的には本部からの情報を元に店頭を作りますが、それだけでは他の店と全同じになってしまうので、紹介する本の隣に“世界がさらに広がるような何か1冊” を置くように意識しています。

 例えば、(目の前にある)この『世界の日本人ジョーク集』。これは本部の方から店頭の棚に置くよう指示がでている商品なんですが、隣にある本『なぜあの人のジョークは面白いのか?』は私が置いたものです。

 タイトルだったり、テーマだったり、内容だったり、“面白そう”って思った本をきっかけに、その先の世界を広げていく、何か違うものを手にとっていただく。そんなイメージで棚を作っています。

――面白いですね。Youtube の関連動画のような…連想ゲームみたいな感じでしょうか。失礼ながら、私は検索機があって探しやすいので、よくジュンク堂書店さんなんかを利用するんですが…スタイルがまったく違いますね。

荒巻:色んなスタイルの書店があった方がお客様から見て楽しいと思うので、違うといいなと思っています。私もプライベートでは大型書店をよく利用するのですが、欲しい本が決まっている場合は検索機のある書店の方が便利です。

 当店も検索機を設置したいところではありますが…(笑)、“行ってみて、何か面白そうな本がある”が、「くまざわ書店」の目指すところだと私は思っています。検索機があると、分類されたジャンル通りの棚に本を置かなければならない縛りが生まれますが、“連想ゲーム”みたいな遊びをやりやすいという点では、検索機がないのも働いている方としては楽しいかなと思っています。

――それは、お客さんの側としても楽しいと感じますね。意図していなかった本との“出合い”があります。

荒巻:ほかにも文庫の仕掛け販売などもやっています。レジ前の新刊文庫棚の1区画や棚脇の机の上に、軽く読めそうな文庫を置いていて、担当者が定期的に入れ替えます。ミステリーとかエッセイとかテーマを変えて、本をあまり読まない人や小・中・高学生にも面白そうと思ってくれるきっかけになってくれたらいいなと思っています。

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新刊文庫コーナーの仕掛け販売棚。ポップやテーマは各出版社さんから提案してくれるそう

――書評コーナーもほかの書店には見られない独自のスタイルですごく面白いですよね。こちらのコーナーは毎週変えているんですか?

荒巻:はい。当店では朝日、日経、毎日、読売、東京新聞の 5 紙とビジネス雑誌 3 誌の書評を扱っていて、読売新聞以外は毎週土曜日、ビジネス誌は毎週月曜日に入れ替えになります。書評掲載時に商品の在庫がなかったり、注文後入荷までに時間がかかったりして、常に在庫がある状態を作るのが難しいですね。在庫があってもすぐに売り切れてしまうこともあります。土曜の午前中は、入れ替えがあるってわかっていらっしゃるお客様からのプレッシャーをたまに感じたりします(笑)。

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書評コーナー。下の棚に現物が置かれ、紹介されている本の記事の上には「在庫  あり」「注文中」のハンコが押されている

●「くまざわ書店」と柏の街

――こうやって売り場づくりをしていると、その街の売れ筋の本など傾向が出てくるものなんでしょうか?「くまざわ書店」から見た柏はどんな街ですか?

荒巻:出店前の本部のリサーチでは、柏は周辺にキャンパスが多い学生の街、ジャズやサッカーなど、色んなものが盛んなカルチャーの街で、知的好奇心の強い方が多い、という印象でした。ですので、書評コーナーは広めに取り、さらにコーナーで紹介されている本をゆっくり選べるよう、椅子と机を配置しました。広く、ゆったりとした空間でじっくり本を選べる心地良い本屋、というのが最初に決まっていて、それに沿った棚づくりをしているという感じです。
 ママさん世代が多いというのもリサーチで出ています。また、お店が入っている柏高島屋新館が 30〜40 代の女性をターゲットにしていることもあり、エスカレーター前には広い児童書のコーナーや女性ファッション誌の棚を設けて、そこから美容本や女性のライフスタイルの棚へと誘導しています。

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書評コーナー前に置かれた机と椅子

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エスカレーター脇の美容本コーナー

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広々、充実の児童書コーナー!

――同じフロアにある「カフェ・ド・クリエ」さんとの売り場のシェアも事前に計画していたんですか?

荒巻:そうですね。“ブック&カフェ”のコンセプトで出店前に契約させていただきました。コミックなど一部持ち込めないものもあるのですが、当店のフロアにある「カフェ・ド・クリエ」さんの机と椅子で美味しいコーヒーを飲みながら本を選んでいただいたり、「カフェ・ド・クリエ」さんの方にも未会計の商品を2冊まで持ち込んでも OK となっています。
 本をじっくり見て選べるというコンセプトは、柏駅周辺のほかの書店ではあまり見ないのでご好評を頂いていますね。
「カフェ・ド・クリエ」さんの机と椅子は変形させて大きな長机にすることが可能で、ワインの試飲会など大人のワークショップをやる予定でした。2ヶ月に1回、絵本の読み聞かせ会もやっていたんです。コロナが落ち着いたら、またイベントを再開し、盛り上げて行きたいですね。

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じっくり本を吟味して、今日の一冊を連れて帰ろう

――今回、取材のテーマが「柏と本」になります。街と本、本と人が繋がるにはどうしたらいいと思いますか?

荒巻:街の人たちが身近に本を感じられることが大事かなって思います。私たちは新刊書店ですけど、古本屋も図書館もみんな、本を手に取る施設同士が地域で協力して、みんなで本を好きになってもらうための努力をすることが一番かなと思いますね。
 新刊書店としては、「くまざわ書店」は書評コーナーや教養書、学習参考などが特色になっているお店ですが、より読みやすく、手軽な本を紹介することで、もっと本に親しんでもらえるようにすることが大事かなと思います。

●“現地・現物・現場第一”な書店です

――「くまざわ書店」の魅力が色々紐解けました。最後に荒巻さんご自身についてお聞きしてもよろしいでしょうか。「くまざわ書店」に勤められてどのくらいですか?

荒巻: 2006 年に入社して 15 年目になります。当時の店舗数は 170 店舗ほど。ちょうど出店予定が重なっていた時期で、新卒で入りました。

 もともとは介護・福祉の業界に進むつもりだったんですが、色々ありまして(笑)。就職活動を再開した時に見つけたのが、朝日新聞の紙面に載っていた「くまざわ書店」の募集でした。

――どうして「くまざわ書店」だったんですか?

荒巻:高校生の時、通学途中に「くまざわ書店」があって、帰りにいつも寄っていました。

 大学受験の際に「なるべく学費が安くて、無理なく合格できる」というふわぁっとした条件で大学を探しておりまして、普通は書店の店員さんに聞くことじゃないんですけど、当時は大学の願書の取り扱いを書店の方でやっていたので、その願書コーナーにいた「くまざわ書店」のスタッフさんに「今から出願が間に合って、そういう大学有りますか?」って聞いたんです。

 そしたら、ちゃんと対応してくれて、大学にも無事入れました。なんだかその時に救われた気分になって。

 自分としては、大学卒業後、介護の道で人の役に立ちたいって思いがあったのですが、書店のスタッフさんみたいに違う方法で人の役に立つ道もあるのかなと。それこそ老若男女、色々な世代の人と関われて、役に立ったり支えになれたりするのかなと思って応募したんです。

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自分の入社エピソードを「全然面白くないんですが…」と話す荒巻さん。いいえ、  充分面白いです

荒巻: 私、お世話になった(先述した)店以外に「くまざわ書店」があること自体を全然知らなかったので、入社当時「くまざわ書店」自体には特に何もイメージはなかったんです(笑)。

 15 年を経て、入社したての頃よりは「くまざわ書店」をもっと好きになって欲しい、もっとみんなに利用してほしいなって思うようになりました。
「くまざわ書店」って、基本的には“現地・現物・現場第一”な会社なんです。ある程度の裁量が店舗にあって、任せてもらえるので、工夫をする喜びもあり、意見が言いやすい。
アルバイトでも契約社員でも正社員でも関係なくみんなレジに入って、朝は一緒に雑誌を開けたりする。みんなで盛り上げていこうってなるのは、「くまざわ書店」の強みだと思いますね。
 よくドラマで見る会社のようにビックプロジェクトがあってその成功・失敗のプロセスが…! みたいな充実感は得にくいのですが、自分のおすすめした本が売れたり、うちの店で見つけた参考書で勉強して受験受かりましたって言いに来てくれると、やっぱりすごくうれしいですね。小さなことなんですけど、日々うれしいことも嫌なこともあって、うれしいことの方が多いかなって感じです。


――どうもありがとうございました!最後に、荒巻さんのおすすめの本を教えてもらって、締めとさせてください。

荒巻:いろんな取材で必ずこちらの本を推しているんですが(笑)。角田光代さんの『
Presentsプレゼンツ)』(双葉社)です。“プレゼント”って、誕生日や記念日にもらうものって感じですけど、そうじゃなくて、日々色んな人から色んなものをもらっているんだなっていう、周りの人や普段の生活の大切さを気づかせてくれる一冊です。

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荒巻さんの“推し本”『Presents(プレゼンツ)』(双葉社)

●推し本情報

タイトル:『Presents

著者:角田光代

出版社:双葉社

URL:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/4-575-23539-3.html

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Profile:
荒巻さやか(あらまきさやか)
2006 年、株式会社くまざわ(くまざわ書店)入社。取手店に 2 年半勤務、モラージュ柏の新店の立ち上げのため1年間店長を務め、続いて新鎌ヶ谷店、船橋店にそれぞれ 1 年勤務。2011 年 7 月から新鎌ヶ谷店に再び戻り、2017 年 4 月まで店長を務めたのち、2017 年 5 月から柏高島屋ステーションモール店へ配属。店長とエリアマネージャーを務めている。

●くまざわ書店:

https://www.kumabook.com/

●くまざわ書店 柏高島屋ステーションモール店:

https://www.kumabook.com/shop/kashiwa-takashimaya/

取材・文/本活倶楽部 笠井木々路

撮影/笠井嶺

 

 

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