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執筆者の写真本活 倶楽部

ディック・ブルーナ『ちいさな うさこちゃん』【私の推し本!】

更新日:2022年7月22日

春から始まったこのコーナー。春・夏・秋・冬、シーズンごとにテーマを決めて“私の推し本”を紹介しています。 2021年春のテーマは「はじまり」。


●本を紹介してくれる人●

本活倶楽部

小島彩(こじまあや)


『ちいさな うさこちゃん』



 ああ、この安心感、といつも思います。小さくて、でもどっしりとしたハードカバーの表紙。一枚ページをめくると、シンプルでカラフルな絵とおだやかな文章が、うさこちゃんの生まれた日を語り始める。誰もが知っているうさこちゃんの、はじまりのお話です。


 いつでも優しくて、うさこちゃんへの、そして読み手であるちいさい人たちへの、愛情にあふれているこの本。読むたびに、どこかから大きな力で、ふわっと支えられているような気分になります。 そう感じるのは、わたしが人生で一番初めにふれたのが、この本だったからなのでしょうか。 いや、それだけではないかもしれないぞ、と最近思うのです。


 まず、ブルーナの絵。一目見るだけで、自分のなかに絶えず漂う「日常」がふっと落ち着いて、どこか澄みきったところに連れて行かれる気がします。それはきっと、絵の色調や構図が、完璧に調和しているからでしょう。

 それでいて、うさこちゃんの表情や動き、出てくるおもちゃや服や食べ物は、なんともいえずリアルです。(この本には出てきませんが、ブルーナの描く洋梨、なんであんなにおいしそうなんでしょうか…!笑)


 そして、翻訳家・石井桃子さんの、素朴であたたかい語り口。タイトルを「うさこちゃん」と訳した鋭い感覚をもって、命の誕生の喜びを伝えてくれます。だれにでもわかる易しい言葉なのに、なんだか味わい深いのです。

 そしてその文章は、どこか七五調のようで、リズミカルでうれしそう。ふわふわさんやふわおくさんたちの喜びが、文章に乗り移ってしまったかのようです。なんだかついつい、口に出して音読してみたくなってしまいます。


 ブルーナの絵の世界、石井さんの日本語の魔法。

 この二つが組み合わさっているからこそ、あの安心感ー自分という存在が深いところで支えられているという感覚が、生まれるのでしょう。

 これから人生を始めるひとにとって、これ以上のお祝いがあるでしょうか。


 声高にではなく、静かにそっと、確かな愛情と優しさを伝えてくれる。 この本は誰もの「はじまり」を祝福してくれる、かけがえのない本だと思います。


●推し本情報

タイトル:ブルーナの絵本『ちいさな うさこちゃん』

著者:ディック・ブルーナ(文・イラスト)、いしいももこ(翻訳)

出版社:福音館書店

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