今月からスタートする「私の推し本」コーナー。春・夏・秋・冬、シーズンごとにテーマを決めていろいろな人の“推し本”を紹介していきます。2021年春のテーマは「はじまり」。
●本を紹介してくれる人●
本活倶楽部
所 英明(ところひであき)
『風の歌を聴け』
どんな大作家と言われる人にも「はじまり」はあり、その時は無名の新人ですが、以下はぼくは幸運なことに、村上春樹さんとはそういう出会いをすることができました、という話。
時は1979年5月頃。ぼくは22歳で、お茶の水にある大学に通う学生だった。
だから、神田の三省堂書店は行きつけで、その日も何気なく書架の前に立ち、雑誌を手に取った。「群像」。そして新人賞の当選作発表。ふむふむ。どんな感じかな? 審査員の選評に目を走らせる。丸谷才一がヴォネガットの名前を出して誉めている。へえ。じゃ、単行本が出たら買ってみようか。そう思った。
もちろん、その後ぼくはその新人賞受賞作を買って、更に彼の本が出る度に買い続けることになる。最初の数年間はぼくの周りに彼の本を買う人間はいなかった。ひとりも。
村上春樹はいいぜ、と吹聴しても誰もついてこなかった。やれやれ。
がっかりしたかって? まさか。最高にいい気分だったね。
●推し本情報
タイトル:『風の歌を聴け』
著者:村上春樹
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